嘘日記#5 忘備録(2)

月に触れそうなくらい高いタワーマンションに住み、 静脈のような色のワインを飲む。 禁煙のベランダでタバコを吸う。 最後くらい、自分に言い聞かせながら、燦然とした下界を見下ろす。 なぜかジョンレノンの言葉が頭に浮かんだ。「ビートルズは、ほしいだけの金を儲け、 好きなだけの名声を得て、何も無いことを知った。」ワインの酔いと、久しぶりのタバコで視界が揺れる。 思い出は無力と知った日、カレンダーにバツをつけた。 私は全てこの手で決断し、何もかもを手に入れてきた 生まれたことに意味なんてないが、死ぬことに意味なんてもっとない。 何もかも意味なかったのだ、公文式も、持久走も、家族も、受験も、恋愛も、就職も、出世も、結婚も、自殺も、年金も、世間も、全部全部意味なんてないんだ。 最後に携帯の通知をみる、誰からの連絡もない事実が私の仮説を証明してみたいで、笑った。 携帯のメモ機能に「FUCK 」とだけ残し、ベランダの柵をよじ登る。 月に向かって手を伸ばさそうとした時、携帯が鳴った。

幸福な者から芸術は生まれない。 芸術というのは精神病患者の博覧会で、手を替え品を替え、自らのキチガイさを表現でき得る手段で排出しているに過ぎない。それを、冷やかしめいた憐れな目で、動物園で猿を傍観してるかのように健常者が消費しているのだ。 異性とデートする口実としての、映画館や美術館であって、創作された背景など考えられることはない。中には、排出行為をせず、好んで芸術を消費し続けるイカれた奴もいるが、それはデイサービスの戯れのようなもので、精神疾患同士、傷を舐め合ってるだけだ。勘違いして欲しくないのは、私は芸術をこよなく愛している。まあ、何が言いたいかって言うと、報われるといいなあって。俺もお前もさ。俺は見てるよって、お前らのこと。頑張ろうなってこと。死ぬなよってこと。ゴミみたいな奴もいるけどさ、嫌いにならるなよって、こんな世界をさ。愛していこうぜってこと。

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